遠隔診療における「質管理」とは──厚労省指針(令和5年3月一部改訂)に基づく整理

遠隔診療の普及が進む中で、制度的・技術的な議論と並行して、「質管理(Quality Management)」の重要性が増している。
本稿では、令和5年3月に一部改訂された厚生労働省『オンライン診療の適切な実施に関する指針』を参照し、遠隔診療における質管理の構成要素を整理する。


定義:質管理とは何か

遠隔診療における質管理とは、対面診療と同等の医療の質と安全性を維持するために、診療体制・運用手順・情報管理・記録・評価の仕組みを整備し、継続的に運用・改善していく一連の管理活動を指す。

制度的には、「医療法第25条第1項(医療提供体制の整備)」との接続も含意されている。


厚労省指針に基づく構成要素(令和5年3月一部改訂)

1. 医療の質と適正性の判断

  • 指針第3章において、病状や診療内容に応じて、対面診療と遠隔診療を適切に使い分ける判断力が求められると明記されている。

  • 診療実施の判断基準やリスク評価も質管理に含まれる。

2. 診療体制と標準化された運用手順

  • 指針第6章では、業務手順書の整備、診療記録の保存、医療安全管理体制の構築が必要とされている。

  • 実質的には、QMS(Quality Management System)に類する体制が求められている。

3. 通信の安全性と個人情報保護

  • 指針第5章で、通信の暗号化・認証・アクセス制御など、技術的セキュリティ措置が明文化されている。

  • 医療情報システム安全管理ガイドライン(第6.0版)との整合性も問われる領域。

4. インシデント管理と再発防止

  • 指針第6章後半では、苦情やトラブルの記録、分析、再発防止策の構築を含めた対応体制の整備が求められている。

  • クレーム処理とは切り分けた、内部監査的な視点が必要。

5. 教育・訓練とスキル担保

  • 付録2のチェックリストでは、遠隔診療に従事する医療従事者への研修体制の整備と、患者に対する説明・操作支援の必要性が記載されている。


実務上の位置づけと展望

遠隔診療における質管理は、現場対応の属人化を防ぎ、制度的整合性を担保するための基盤である。とりわけ、今後の診療報酬制度・医療機器認証制度との接続を視野に入れると、質管理の文書化と監査可能性の確保は避けられない論点となる。


参考資料

コメント

この記事へのコメントはありません。

PAGE TOP